MSPはロミジュリをやらない、やるとしたらMSPの最後の年だ、という、MSP内都市伝説のごときモノがあったらしい。もう一つ、MSPがロミジュリをやらないのは、井上先生がロミジュリを嫌いだからだ、という説もあったらしい。どちらもMSPに何度も参加している学生から聞いた。 もちろん、どちらも違う。 大学の140周年記念の2021年にMSPでも何かやりませんか?とこういう提案を受けたのは2019年で、その時私は、では地方公演をやりましょう、と答えた。そして演目は『ロミオとジュリエット』で行こうと心の中で即断していた。 『ロミオとジュリエット』は実はMSPではやりにくい作品だった。登場人物は意外と少ないのだ。学校行事である以上なるべく大勢を舞台に上げたいとしてきたMSPのコンセプトにはちょっと合わない。しかし地方公演の座組とアカデミーホールの座組と二つ作れば、その問題は解決するぞ!ロミジュリやるならこれが最初で最後のチャンスかもしれない!というわけで今年の公演となった次第。実は2年前から決まっていた。 そして、実を言うと、ロミジュリは昨年もやっていて、無観客全面配信となった昨年の公演『じゃじゃ馬ならし』の配信テストも兼ねて、さらには今年のためのパイロットケースとして(その趣旨は参加メンバーにも説明したうえで)MSPラボと称して、日本で最初に上演された台本を用いて『ロメオ、エンド、ジュリエット』をリーディング公演を行っている。 それを受けての今年の公演だ。コンセプトは、日本で一番新しい、学生たちの瑞々しい翻訳によるアカデミーホール版と、日本で一番古い言葉による特別公演版『ロメオ、エンド、ジュリエット』の競演。このことは、昨年の『じゃじゃ馬ならし』のパンフレットの次年度予告でも書いてある。 というわけでMSP待望のロミジュリ!だが、コロナウィルス感染拡大の状況下、待ち受けていたのは様々な困難。稽古開始となるはずの8月は、感染者数がピークでとても対面稽古を開始できる状況じゃなかった。結局対面稽古は例年よりも1か月以上遅れて9月からの開始となった。スタッフの諸活動も遅れた。夏がなかったMSP。初めてのことだ。救いは、例年のことだが、プロデューサー牧さんをはじめとする学生たちが常に前を向いていてくれたことだ。学生がその姿勢を崩さない限り、こちらが弱音を吐くわけにもいかない。 しかし、そうした中、特別公演組が参加予定だった群馬県前橋市での群馬会館公演、宮城県仙台市のおろし町アートマルシェの公演が中止となった(後者はフェスそのものが中止となった)。懸念はしていたが、希望は持っていたのだが。それぞれの地域でMSP公演のためにご尽力いただいたそれぞれの地域の方たち、とくに前橋の中村ひろみさんと仙台の赤羽ひろみさんには心から感謝したい。お二人の前向きな気持ちにはどれだけ助けられたことか。 この原稿を書いている10月頭の時点では、アカデミーホール版と(配信限定にはなってしまったが)特別公演版の競演は行う予定である。この1か月後に、日本が(そして世界が)どうなっているか想像もつかないが、MSPが止まることはないはずだ。 そしてそのMSPの期間と並行して、アカデミーホールの地下の明治大学博物館では「明治大学とシェイクスピア」展が開催中のはずである。こちらではMSPや明大出身の演劇人たちの活動を紹介していく。こちらも隠れテーマはロミジュリである。いろいろな角度からいろいろな『ロミオとジュリエット』が楽しめるようになっている。 さらに先も考えたい。実は地方公演をにらんだ座組を組織した理由の一つに、再演可能で移動可能な演目を作っておきたいという思惑もあった。これまでMSPに対して外部参加のお誘いも実はないわけではなかったのだが、アカデミーホール版ではそれは不可能だった。でもコンパクトでポータブルなバージョンを作っておけば(メンバーは入れ替わるかもしれないが)それはできる。特に今年はお客様の前でやることができなかっただけに、機会があればぜひやりたい。 MSPはロミジュリをやらない?いえ、やりますよ。今目の前で。そして、これからも。何度でも。 この困難な折、今回の公演の実現には多くの方のご尽力がありました。特に教務事務室の皆様には、MSPが通常活動に近い形での活動ができるよう、様々な模索をしていただき、例年以上にミーティングを重ねていろいろ考えてくださいました。また学校関係各位にも、ご配慮・ご支援を様々に頂いています。皆様に心より感謝します。29----------井上優(MSPコーディネーター/文学部教授)----------MSPはロミジュリをやらない?
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