第18回 明治大学シェイクスピアプロジェクト ロミオとジュリエット
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シェイクスピアノート≪参考文献≫シェイクスピア著 松岡和子訳『ロミオとジュリエット シェイクスピア全集2』筑摩書房、1996年河合祥一郎著『「ロミオとジュリエット」恋に落ちる演劇術』みすず書房、2005年(磯貝正統 文4)≪参考文献≫シェイクスピア著 松岡和子訳『ロミオとジュリエット シェイクスピア全集2』筑摩書房、1996年(谷口紀乃花 文2)23恋の魔力  「恋」、と聞いてあなたは何を想像するだろうか。多くのシェイクスピア作品において「恋」は重要な要素の一つだ。それは時に物語の喜劇性を高めてくれる。例えば、『ヴェニスの商人』において、バッサーニオとポーシャの恋愛の成就は大団円を迎える最後において喜劇性を高める要素の一つとなっている。しかし、その一方で「恋」は登場人物を狂わせてしまうこともある。例えば、『アントニーとクレオパトラ』がそうであると考える。クレオパトラへの「愛」に溺れるアントニーは、その「愛」が故に分別を失い、やがてその身を滅ぼしてしまう。 では、『ロミオとジュリエット』において「恋」とはいかなる要素であろうか。思うに、先に述べた両面を有しているのではないか。物語の前半部分は間違いなく喜劇である。ロミオとジュリエット、二人の間で紡がれる純愛に我々は魅了され、心の中で二人の「恋」を応援することだろう。だが、後半にかけて歯車は次第に狂い始める。「恋」が故に、ロミオは自らの中に「弱さ」を生み出してしまうのだ。第三幕一場にて、侮辱の言葉を並べるティボルトに対して剣を抜いて立ち向かわないロミオの姿はまさにその「弱さ」を象徴している。その「弱さ」が故に、ロミオは親友を失うこととなり、誰もが知る悲劇を招いてしまうことになる。だが、最後にロミオはその自らの「弱さ」を克服することとなる。それがいかなる場面であるか、是非舞台上でご賞味あれ。運命の持つ力   『ロミオとジュリエット』にはある一通の手紙が登場します。重大な役割を持ったその手紙は、本来手にすべき人物の元へ届けられませんでした。そのことがきっかけで、ロミオとジュリエットの運命は大きく変わってしまいます。なんと手紙が届けられるのを妨げたのは、今まさに私たちの生活を脅かしているのと同じ感染症だったのです。シェイクスピアが生きた時代、ヨーロッパではペスト(黒死病)が大流行していました。『ロミオとジュリエット』が初演される少し前にはロンドンの街でもペストが流行していたという記録があります。 少し前まで歴史上の一つの出来事でしかなかった感染症は、気づいた時には私たちの生活に棲みついていました。コロナ禍を生きる私たちは、誰しもがかけがえのない何かを犠牲にして生活しています。教室で授業を受けられない…入学式や卒業式が中止になった…友達に会えない…旅行に行けない…。なぜ私たちが?どうして今?何度考えても、どれだけ考えても理由なんてわかりません。それでも私たちは感染症を前にした時、無力にも大切なものを諦めるしかないのです。そんな不条理にシェイクスピアもまた苦しんでいたのではないでしょうか。だからこそ、ロミオとジュリエットに降りかかる悲劇のきっかけに感染症が深く関係しているのではないでしょうか。人間がどうにもできない不条理に翻弄されるのは、過去も今も、きっとこの先もずっと変わらないのです。Shakespeare Note

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